今日の役に立たない一言 - Today’s Trifle! -

古い記事ではさまざまなテーマを書いていますが、2007年以降はプログラミング関連の話がほとんどです。

「言い訳をするな」の一言によって失われるもの

どこにいても聞こえてきそうな「言い訳をするな」という一言。ほんの一言なんだけど、この一言によって失われてしまうものは膨大だ。
まずは、この一言が、どのような状況で発せられるのかを考えてみる。そこには、対話する人たちがいる。そして、その人たちにとって都合が悪いことが起きていて、ある人が都合が悪いことが起きていることを知った、という状況だろう。そしてその人が他の人にその悪い情報を伝達したときに、情報を受けた人が発するというのがよくあるケースではないかと思う。
家庭の場合ならば、情報を伝達する側は子供で、受ける側は親だ。会社などの場合、情報を伝達する側は部下で、受ける側は上司であることが多いだろう。
「言い訳をするな」
それまで対話が成り立っていたとしても、この一言が発せられた時点で悪い情報を伝達するためのコミュニケーションは中断してしまう。この一言は、この言葉を発した側が「情報を受け取りたくない」という意思表示をしているのだから、情報を伝える側としては、コミュニケーションを中断せざるを得ない。その後、コミュニケーションを再開できるかどうかは、情報を伝達する側のコミュニケーションスキルによるところが大きい。そのような状況でコミュニケーションを再開するには、「情報を受け取りたくない」意思表示という高いハードルを乗り超えないといけない。それをできるコミュニケーションスキルを持っている人は、そう多くはないだろう。単純にパレートの法則を適用してしまえば、20%程度と考えるのが妥当かもしれない。
コミュニケーションが再開されなかった場合、それ以降で伝達する予定だった情報は伝達すべきところに伝わらないままになってしまう。情報が失われてしまう。しかし、失われるのは情報だけではない。その情報を受け取っていれば適切にできたはずの判断ができなくなってしまうのだ。適切な判断ができないことによって、得られたはずの利益が得られないままになったり、失わずに済んだはずの損失が発生してしまう。
失われるのはそれだけではない。「言い訳」という言葉は、そこにあった当事者間の信頼関係を否定する行為だ。信頼関係が成り立っている人と人とのコミュニケーションの中では、「言い訳」という言葉は出にくいはずだ。たとえ出てきたとしても、情報を伝達する側が自ら発するのならば、信頼関係に傷がつく心配はないだろう。「七つの習慣」的に言えば、情報の受け手が「言い訳」という言葉を発することによって、信頼残高を大きく取り崩している、と言える。
そもそも、当事者たちにとって、特に集団を管理する側にとっては、悪い情報を収集し、整理し、分析することは、リスク管理の基本である。良い情報は報告がなくても自然と伝達されることが多いが、悪い情報はそのまま埋もれてしまう傾向にある。しかし埋もれたからと言って、消えることはない。時間と共に大きくなっていくのだ。だからこそ、リスク管理するためには、悪い情報こそ、努力してでも収集しなければいけない。
健康管理では「早期発見、早期治療」が常識となっているが、リスク管理でもまったく同じことが言える。早期発見できたリスクは、少ないコストで予防や対策が可能だ。しかし、早期発見できなかったリスクは、発見が後になればなるほど大きな損失をもたらす可能性が非常に高くなる。
「言い訳をするな」という一言は、その時点で得られる貴重な情報を失うばかりでなく、大きなリスクを背負い込むことにもつながる。さらには、相互の信頼関係をも壊してしまう可能性もある。